ジャンプの漫画学校講義録③読み手に負担をかけないネームの作り方

週刊少年ジャンプ・ジャンプSQ.・少年ジャンプ+編集部は、2020年度より、漫画家を対象とした創作講座「ジャンプの漫画学校」を開講しています。
第1期の全10回の講義より、一部を抜粋し、本ブログで順に公開していきます。
今回は「基礎編③漫画の「絵・コマ割り」について」から一部を紹介いたします。
半世紀以上にわたって多くの人気作品を輩出してきたジャンプの持つ経験やノウハウが、クリエイターの皆様の漫画制作の一助になれば幸いです。

 

【講師】

週刊少年ジャンプ副編集長 齊藤優

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<主な担当作品>

『黒子のバスケ』『ニセコイ』『ぼくたちは勉強ができない』『ヘタッピマンガ研究所R』など。

 

 

コマ割りはこの5つを覚えるべし! 

齊藤 僕は運のいいことに『アイシールド21』(稲垣理一郎・村田雄介)、『銀魂』(空知英秋)、『黒子のバスケ』(藤巻忠俊)、『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)、『ワールドトリガー』(葦原大介)と、読みやすくてコマ割りが超上手い作家さんを担当することが多く、非常に勉強させて頂きました。編集部の中でも特にコマ割りの話をよくしている編集者ということで、今回の講師をさせて頂くことになりました。とはいえあくまで個人的な考え方なので、絶対!ではないのですが、少しでも参考になれば幸いです。

 

 まず漫画の大前提として、多くの人に読んでもらうには読者に負担をかけないことが重要です。そのために次の5つのポイントを覚えて下さい。

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齊藤 これからこの5つについて説明していきます。まずお手本として『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)を使わせて頂きます。

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齊藤 泣きそうな甘露寺さんが炭治郎に話しかけて泣きつくシーンです。先程お話しした「コマ単位で何の絵か分かるか」は、文字通り「各コマで何が起きているか読者に伝わる」ということです。1コマ目は泣きそうで胸がこぼれそうな甘露寺さん、2コマ目は慌てる炭治郎、3コマ目は泣きついている甘露寺さんとなだめる炭治郎…と、『鬼滅の刃』は非常に分かりやすく描かれていますね。

 「そんなの当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、新人さんは無意識に「このコマ、何の絵ですか?」と担当に確認されるようなコマを描いてしまうので、まずはこれを心掛けて下さい。

 次にロング・アップ・ミドルの説明です。ロングショットとはキャラクターたちの全身プラスどの位置、空間、距離感にいるかを示す引き絵のことです。このページでいうと右ページの一番下、左ページの4コマ目と5コマ目です。背景を入れることでどういう状況に置かれているかを読者に伝え、かつキャラクター同士がどれくらいの「距離」かも伝えています。

 ミドルショットはキャラの膝~腰より上が入ったものを指します。アップよりもちょっと引いて、手の演技が描ける距離だと思って下さい。『鬼滅の刃』は手の演技が豊富で、これによりキャラクターの情報量が増えています。例えば右ページ2コマ目の炭治郎は、この「手」があることで味が加わっているんですよね。左ページ1コマ目も泣いている仕草まで収めているので、それで甘露寺さんのキャラクターが絵で伝わります。「仕草」は、キャラ性を伝えるのに有効なので意識してみることをお勧めします。

 最後にアップショット。これは皆さん分かると思いますが、大きい顔の絵です。左ページ中央の甘露寺さんですね。吾峠先生はここに両手の演技も加えているので、より感情が豊かに伝わります。この「大きい顔の絵」というのは漫画において大事で、キャラクターを好きになって貰うには、顔をちゃんと描かないと始まりません。が…それだけではなくロング・ミドルもあるとより状況や感情が伝えやすいです。

 


 

コマのバランスは、カメラを引くことから!

齊藤 そして新人作家さんほど、苦手な絵・面倒な構図を嫌がるところがあります。顔アップや手の演技がないミドルショットばかり描いて、結果的に状況も展開も分かりづらくなります。苦手な絵を避けた結果、読者に伝わらないものになってしまうのは本末転倒なので注意しましょう。

 新人さんの作品が読みにくいと感じるのは、大体この得意な構図だけ描いて話を進めようとしてしまうのが原因です。よく編集者が「(上達には)落書きだけではなく、漫画を1作描き上げるといいですよ」と言うのは、落書きだと得意な構図に偏って、苦手な構図を描かなくなりがちだから。逆に1作の漫画で伝わるものを描こうとすると、苦手な構図も避けては通れない。そこにチャレンジすることでレベルアップするんです。

 次に、コマのバランスに関して、僕が感銘を受けた作家さんの言葉を紹介します。

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齊藤 僕はよく(『あやかしトライアングル』などの)矢吹先生の漫画を「摩擦係数ゼロ」と表現しています。滅茶苦茶絵が上手く漫画そのものが読みやすいので、ノンストレスなんですよね。で、どういう意識をされているのか伺うと、このようなお言葉を頂きました。矢吹先生は漫画を、1コマ1コマ単位では意識していないそうです。

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齊藤 もう1つは冨樫先生の言葉です。プロでもロングは面倒だと感じるそうですが、そこで逃げずに描くからプロなんです。そういう小さなところから差がついていくんです。

 以上をまとめると「まずはカメラを引いてみよう」。もちろん要所要所で大きい顔は入れて下さい。まずは自分の漫画を読み直してカメラの引き具合が適切か、キャラクターの位置関係や距離感が伝わるか、という目線でチェックするといいと思います。

 


 

読者が追うのは、絵ではなく「フキダシ」!

齊藤 では先程の五か条の最初のひとつ、「意外とみんな意識していないけれど覚えておいて欲しい」フキダシについてお話しします。

 読者が漫画を読んで最初に読むのは絵ではなくフキダシです。フキダシの位置や大きさにどれだけ意識を向けるか、大事な絵をフキダシの間に置くかはとても重要です。自分に置き換えて考えてみて欲しいのですが、雑誌をめくる時、フキダシだけばーっと読んで、絵はきちんと見ていないことって多くないですか?

 それではまた『鬼滅の刃』を例に見ていきましょう。

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齊藤 吾峠先生は基本に丁寧にフキダシを置かれています。どう工夫されているかというと、フキダシの位置が綺麗なS字を紡いでいるんですよね。逆に余計なことは一切していない。また1コマ目を見て頂ければ分かりますが、見せたい顔をフキダシの間に置いています。フキダシをなぞる読者が絶対に見る位置に大事な絵を入れているんです。

 あと、皆さんは結構抜けがちなのですが、フキダシのツノをしっかり描きましょう。漫画には音声がついていないので、ツノがないと読者は誰のセリフか分からないことがあります。さらにフキダシは顔にかからないようにすると読みやすい漫画になります。

 これらのことから、読みやすさというものはある程度、知識と意識だけで改善できる点もあると分かって頂けると思います。

(了)

 


 

この講座は2020年8月22日に開催された「ジャンプの漫画学校」第1期講義「基礎編③漫画の「絵・コマ割り」について」からの抜粋です。他にも「筒井大志先生の創意工夫」「小畑健先生から伺ったコマ割りの話」「フキダシの『めだかボックス』のケース」「漫画家アンケートからわかるスマホで映える絵作りとは」など、様々な事例や考察が紹介されました。また講師陣の座談会、受講生からの質疑応答も行われました。

 

【「ジャンプの漫画学校」とは】

新人作家・作家志望者を対象とした「大ヒット連載」を目指すための講座です。ただし漫画には教科書や方程式はなく、作家によって性格・センス・考え方が違うからこそ「多様な正解」が存在し、そこに至る道筋も様々です。本講座ではジャンプに蓄積された大量の成功例を元に、多様な正解を提示・分析し、受講者それぞれに合った「正解」を担当編集と一緒に探求していきます。

 

https://school.shonenjump.com/

 

※「ジャンプの漫画学校」第2期も準備中!詳しくは続報にて!!

 

©吾峠呼世晴/集英社