週刊少年ジャンプ・ジャンプSQ.・少年ジャンプ+編集部は、2020年度より、漫画家を対象とした創作講座「ジャンプの漫画学校」を開講しています。
第1期の全10回の講義より、一部を抜粋し、本ブログで順に公開していきます。
今回は「企画・構成編①読切の作り方」から一部を紹介いたします。
半世紀以上にわたって多くの人気作品を輩出してきたジャンプの持つ経験やノウハウが、クリエイターの皆様の漫画制作の一助になれば幸いです。
【講師】
週刊少年ジャンプ副編集長 齊藤優
<主な担当作品>
『黒子のバスケ』『ニセコイ』『ぼくたちは勉強ができない』『ヘタッピマンガ研究所R』など。
連載を見越した読み切りのメリット!
齊藤 雑誌に掲載される漫画は、いきなり連載になることは少なく、読切で作家さんの力を試して積んで連載に繋げることが、多くの編集部のやり方だと思います。そしてこれは「週刊少年ジャンプ」に限った話ですが、読切で人気を取った作品はすぐ連載に繋がる傾向があります。「読者の人気が高かった」→「もっと読みたいというリクエストに応える」→「だから連載作品とする」という理屈ですね。
そもそも、なぜ読切を描くのか。まずは作家さんの一番のメリットとして、経験を積めることです。連載前に完成原稿を作る経験と物語にピリオドを打つ(話を終わらせる)回数は、あればあるほどいいです。もう1つは読切を載せることで、読者の反応を見てチューニングをすることができます。描きたいネタや絵や主人公が読者に受け入れられているか、それらを本番前にリハーサルできるんです。
編集部側のメリットは、連載前に作品とキャラクターの人気を計ることができます。連載作品は多くのネームからコンペで選ぶことが普通です。そんな時「読切でこれだけ人気を獲得した」という実績があれば、連載枠を獲得する説得材料になるんです。
あと個人的には、作家・担当両方のメリットとして、いきなり「どんな連載をしようか」と考えるよりも、読切から入ると作りやすいという面もあります。
押さえるべきは2つのポイント!
齊藤 次に読切を描くにあたって、何を意識するべきか。新人作家さんとの打ち合わせでは「このネーム、起承転結ができていますか?」「構成がきちんとしていますか?」…と、物語構成を気にされる方が多い印象です。…ですが、ここで僕の持論を挙げさせて頂きます。
起承転結や三幕構成、その他もろもろのストーリーテクニックは…いりません!
齊藤 なぜなら、これらを「〇ページに転をもってきて…」とガチガチに考えながら読切を描くことは大変です。そもそも、読切漫画の短い尺にこれらの構成を当てはめるのは難易度が高く、そして構成が起承転結にはまったとしても、漫画として面白いかは別問題であることが多いです。特に新人さんの作品は、「構成が整っているか」より粗削りでもパワーがあるものを編集部は評価するところがあります。
齊藤 では何を考えて読切を描けばいいかというと、必要なものは2つです。
①「変化のあるストーリーにする」
②「ストーリーとは読み終えた結果、キャラクターを好きにさせるためのもの」
齊藤 この2つがあれば大体、話はまとまります。逆にこれ以上のことを考えると描くのも大変ですし、なかなか完成しないと思います。もちろん、この2つに関係なく面白いものを描ける人もいますが、かなりのセンスが必要です。なので自分が天才でもない限り、これら2つをしっかり押さえましょう。
変化によって生まれる「読み応え」!
齊藤 「変化のあるストーリー」とは「最初と最後のページで何かが変わるお話」です。大切な何かを得たり、脅威から救われたり、ということですね。もちろん「何かを失う」も変化の1つですが、ネガティブなものは面白く読ませるのが難しく読者に喜ばれないのであまりお勧めしません。
まずは自分のネームの最初と最後のページを比べてみるといいですね。そこで何が変わっているのか書き出してみましょう。名作と呼ばれる作品の多くは、漫画であれ映画であれ「変化のあるストーリーか」というポイントは大体押さえられています。
なぜストーリーに「変化」が必要かというと、ページ数の割に変化が少ない漫画は、読者から「読みごたえがない」「地味」と思われがちだからです。そういう漫画はアンケートで苦戦して、メジャー誌だと特に埋もれてしまいます。
そして数十ページもある漫画というのは、描く方はもちろん、読んでいる読者も結構大変なんです。特に今はサブスクの映像サービスだったりソシャゲだったり、漫画以外にも色々なコンテンツがあります。お金以上にユーザーの時間を奪い合っているのが今のエンタメ業界です。だから「時間を使って読んだ甲斐があった!」という満足感を持って貰わないといけない。そして変化の大きい作品ほど、読んだ甲斐があると思われる場合が多いです。
主人公を好きにさせる実例『MONSTERS』!
齊藤 ここから、尾田栄一郎先生が『ONE PIECE』の前に描かれた読切『MONSTERS』を例に話したいと思います。この作品は尾田先生が十代の頃に描かれたものですが、ネームの完成度はジャンプ史上で屈指の読切だと思っています。
尾田先生はこの作品について「ドラゴンを見開きでぶった斬りたい」「田舎の侍と都会の騎士の対立を描きたい」という2点を出発点とされたそうです。ここで見習いたいのが「描きたいものがしっかりとある」「それをどうやったらベストな形で表現できるか考えて描かれている」点です。
それではこの作品から「どんな変化があったら印象深いのか」を分析していきます。この作品はフレアというヒロイン視点で話が進み、最後にフレアの心が大きく変わります。序盤より描かれてきた「ドラゴンに家族が殺されたトラウマ」「信じていた人に裏切られたトラウマ」が、主人公の行動を経て最後に払拭されるんです。「キャラクターの心が変わる」と、印象に残る読切になりやすいです。
環境の変化もありますね。街が主人公のお陰で街が救われ、悪党を倒したことでこれからは犠牲者も出なくなります。ここで大きなポイントは、最終ページの後も世界は続いていくということ。なのでこの読切で描いた出来事の後、この世界の人々はどうなっていくのかも考えて描くといいですね。
齊藤 次はストーリー面に注目します。読み終わった読者が主人公を魅力的に感じられるために、尾田先生は「フレアを騙していた男たちを倒す」「不可能と思われていたドラゴン殺しを成し遂げる」を描きました。
これらの「主人公が自分の力を、読者が望む方向に使う」ことで、主人公を魅力的に見せています。読者はこの作品を読むにつれてフレアの境遇を知り、「この女の子を助けて欲しい」と考えるようになります。そんな読者の望みのために主人公が力を使う。他人のために力を行使することで好感度が高まるんです。
齊藤 繰り返しになりますが、読切を作る際は「このストーリーは主人公の魅力を『一番』引き出しているか」と、自問自答しましょう。『MONSTERS』は世界で最強の生物がドラゴンであることを見せつけ、「それを倒す主人公は世界で一番強い」と、物語で分かりやすく描いています。主人公の魅力を一番引き出すエピソードを持ってきている点が、この読切の素晴らしい点です。
読切おすすめテクニック!
齊藤 次はこれまた僕の持論ですが、「読切はこうするいい」という話をさせて頂きます。
齊藤 これは読切を最後まで読んでもらう確率を上げるためのものです。新人さんあるあるですが、終盤の敵を倒すページは大ゴマで大迫力なのに、序盤や中盤には大きな絵が一切入らず、読者が途中で飽きて離れてしまうことが多いんです。最後の見開きは、必ずしも読まれる保証はないんですよね。
映画だったら映画館まで行って最後まで観ない人はほとんどいませんし、小説も買ったら最後まで読む人が大半だと思います。でも新人作家さんの読切漫画は違います。雑誌で他の作品と一緒に発表されることが多いので、飽きられたら途中で読み飛ばされてしまいます。いかに出だしで読者を掴むかを考えて下さい。そこで有効なのが、序盤に大きな絵や「何だこれ?」と興味を引く変わった絵を置くことです。
齊藤 『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)は素晴らしい作品ですが、その中で良いポイントの1つとして、キャラクターの顔を大きく描くところがあります。読者にキャラクターを好きにさせる基本は、顔をしっかり描くこと。新人さんの読切はどうしても詰め込み過ぎて、顔より情報を入れがちです。情報を絞って、顔をはっきり見せることを意識した方がいいと思います。単純ですけど、扉絵に主人公の顔がドカンと載っている時点で、興味のわき方が違ってきます。
…ということで読切についてのお話を終わります。もちろん雑誌や編集部によって求められていることは変わりますし、作家さんによって当てはまることも違いますが、ここでお話ししたことは、すべての作家さんが覚えておいて損はないと思っています。
(了)
この講座は2020年9月5日に開催された「ジャンプの漫画学校」第1期講義「企画・構成編①読切の作り方」からの抜粋です。他にも「登壇者と受講者が挙げる面白い読切/連載1話目」「企画・構成編②連載の作り方」など、様々な事例や考察が紹介されました。また講師陣の座談会、受講生からの質疑応答も行われました。
【「ジャンプの漫画学校」とは】
新人作家・作家志望者を対象とした「大ヒット連載」を目指すための講座です。ただし漫画には教科書や方程式はなく、作家によって性格・センス・考え方が違うからこそ「多様な正解」が存在し、そこに至る道筋も様々です。本講座ではジャンプに蓄積された大量の成功例を元に、多様な正解を提示・分析し、受講者それぞれに合った「正解」を担当編集と一緒に探求していきます。
https://school.shonenjump.com/
※「ジャンプの漫画学校」第2期も準備中!詳しくは続報にて!!
©尾田栄一郎/集英社