ジャンプの漫画学校講義録⑦ギャグ・コメディ漫画編 「ギャグ漫画は好感度が大切」

週刊少年ジャンプ・ジャンプSQ.・少年ジャンプ+編集部は、2020年度より、漫画家を対象とした創作講座「ジャンプの漫画学校」を開講しています。
第1期の全10回の講義より、一部を抜粋し、本ブログで順に公開していきます。
今回は「ジャンル別編/ギャグ・コメディ漫画について」から一部を紹介いたします。
半世紀以上にわたって多くの人気作品を輩出してきたジャンプの持つ経験やノウハウが、クリエイターの皆様の漫画制作の一助になれば幸いです。

 

【講師】

ジャンプSQ.副編集長 服部雄二郎

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<主な担当作品>

『斉木楠雄のΨ難』『保健室の死神』など。

 


 

ギャグ漫画で好感度を上げる7つのポイント!

①ギャグ漫画は好感度が大切

服部 ギャグ漫画というものは好感度が大切です。「ギャグだから面白いことをしていればいい」と思われるかも知れませんが、それだけでは読者の人気は取れません。ギャグの面白さは当然必要ですが、まず、キャラクターをいかに好きになってもらうかが大事です。

 

②キャラクターをいかにして好きになってもらえるか

服部 必ずしもギャグ漫画に限った話ではありませんが、ギャグ漫画は1話完結スタイルが多いジャンルです。それは他のジャンルに比べ、新規読者が入ってくるチャンスが多いということです。続きもののストーリーと異なり、1話完結には毎週毎週読者が最初から最後まで読むことができるメリットがあります。

 ただ、そこでキャラクターの好感度が低いと読者が読むのをやめてしまうので、いかに好感度の高いキャラクターをたくさん作っていけるかが大事です。

 

③「変なことをする=面白いやつ」ではない

服部 では次にどうやってキャラクターを作るか。ギャグ漫画のキャラクターは「変なことをするやつ」という印象がありますが、変なことが必ずしも面白いわけではありません。実際に例を見てみましょう。

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服部 これは『新世紀アイドル伝説 彼方セブンチェンジ』(麻生周一)の主人公が初登場するシーンです。これだけ見ると面白いかも知れませんが、キャラクターが何をしたいのか分からない。つまり読者は感情移入しにくく、そうすると好感度も低くなりがちなんです。

 

④「変なやつ」だけでは読者と分かり合えない

服部 「変なやつ」だと読者が分かりにくいし、そういうキャラクターは行動も理不尽になりがちです。現実でも他人に理不尽な行動をされると、大抵の人は嫌ですよね?

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服部 これは麻生先生の初連載の『ぼくのわたしの勇者学』で、主人公・鋼野剣という先生が赴任してきて勇者学を教えるという作品です。

 主人公は先生なのに生徒に理不尽に切れていますね。右ページの3コマ目は「オレを学べ」といって、「普通にイヤですけど」とツッコミまで入れられています。そもそも主人公が登場人物から好かれていません。少なくとも主人公は登場人物から興味を持たれていないと、読者が興味を持つのは難しい。「変な人だなぁ」という印象で終わってしまい、共感されない場合が多いんです。

 

⑤キャラクターの個性をどう見せていくか

服部 では、どうやって好かれるキャラクターの個性を見せていくか。そのヒントになるのが「分かりやすい個性」です。ストーリー漫画の場合、設定をこねくり回していたら、読者に設定を見せるだけの漫画になってしまいます。ギャグ漫画も一緒で、自分が取り回せる範囲でキャラクターの個性を作りましょう。

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服部 『斉木楠雄のΨ難』(麻生周一)に登場する燃堂力というキャラクターは、一言でいうと「バカ」。作中でもどれだけバカかを分かりやすく伝えています。そして主人公の超能力者・斉木楠雄も、何も考えていない燃堂だけはテレパシーで心を読むことができない。そのため行動が予期できず、ストーリーを膨らませることができるキャラクターになりました。

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服部 海藤瞬は中二病とされるキャラクターです。カッコつけたがりの思春期の男の子をブーストさせて、闇の組織と戦っていると思い込むキャラクターにしています。そうすると何に対しても「ダークリユニオンが~」と反応してくれるし、それにツッコミを入れることができる。修学旅行では、カッコつけて現地の方言を使って周りから「うわぁ」と思われたりと、中二病から膨らませて親近感を抱かれるキャラクターになりました。

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服部 もう一人は照橋心美という、全世界が憧れるという設定の美少女で、ちょっと難産のキャラクターでした。美少女だから誰もが好意的ですが、斉木楠雄だけは彼女の心が読めるからなびかない。すると自分になびかない彼に興味を持ち、それ以降、動きやすいキャラクターになりました。

 これまで挙げたような、シンプルな設定のキャラクターは取り回しがしやすく、逆に設定を細かくしてしまうと、縛られて自由に動けなくなり、読者もどういうキャラクターか読めなくなってしまいます。キャラクターはシンプルで分かりやすくしましょう。

 

⑥好感度は漫画の中にも表れる

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服部 先程の『ぼくのわたしの勇者学』の鋼野剣は、作中のキャラクターたちから苦手とされることが多い主人公でした。一方の斉木楠雄は周囲に好かれていて、初詣の回では皆が彼に寄ってきてくれます。物語の中心は主人公で、周囲は皆、主人公のことを気にしているというのが簡単な構図の作り方です。そこから話を膨らませていきます。

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服部 ちょっと脱線ですが、『斉木楠雄のΨ難』と前2作の大きな違いは、主人公がボケではなくツッコミ側ということです。ツッコミ側の主人公は変なことをしないから読者に嫌われにくく、話も作りやすくなります。

 

⑦個性の付け方でも好き嫌いは分かれる 

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服部 『斉木楠雄のΨ難』の鳥束零太というキャラクターは欲望丸出しで、しかもそれが「モテたい」とか下世話なものです。さらに欲望のために能力を悪用するから、作中のキャラクターたちに敬遠されている。欲望だけの個性では駄目なんです。そして漫画の中で嫌われているキャラクターは他のキャラクターとの絡みも減って、ますます読者人気が取りにくくなってしまいます。だからキャラクターの好感度はとても大切なんです。

 

(了)

 


 

この講座は2020年10月31日に開催された「ジャンプの漫画学校」第1期講義「ジャンル別編/ギャグ・コメディ漫画について」からの抜粋です。他にも「ツッコミの重要性について」「コメディ漫画のコツはコツコツ」「花には水を、ストーリー漫画にはギャグを」など、様々な事例や考察が紹介されました。また講師陣の座談会、受講生からの質疑応答も行われました。

 

【「ジャンプの漫画学校」とは】

新人作家・作家志望者を対象とした「大ヒット連載」を目指すための講座です。ただし漫画には教科書や方程式はなく、作家によって性格・センス・考え方が違うからこそ「多様な正解」が存在し、そこに至る道筋も様々です。本講座ではジャンプに蓄積された大量の成功例を元に、多様な正解を提示・分析し、受講者それぞれに合った「正解」を担当編集と一緒に探求していきます。

 

https://school.shonenjump.com/

 

※「ジャンプの漫画学校」第2期も準備中!詳しくは続報にて!!

 

©麻生周一/集英社